月刊ガソリン・スタンド 掲載「ストーリー経営研修」 2015.07

掲載紙
月刊ガソリン・スタンド
掲載日
2015年7月
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記事

JX系実力派の浪田石油

ストーリーを活用した研修で未来を切り拓く

先月、大阪で一風変わった研修が行われた。大阪市北区の人材派遣会社スペック本社内にあるシアタールームに集まったのは、JX系特約店・浪田石油(本社=大阪市中央区/浪田昌治社長)のSS幹部の面々。何やら心温まる映画を観るというのだ。
浪田石油は、3年ほど前からこうした社員研修を導入している。石油販売業界も新たな時代に入ったとの経営判断から、知恵と行動力を養って新時代を乗り切ろうと、従来とは異なる研修を実施することになったそうだ。
その内容は、一言でいうと創造性を高める研修である。今回は、その集大成とも言うべき3年越しの課題研修で、大画面のシアターに出向いて良質なストーリー作品を鑑賞することとなった。
鑑賞後に、講師から研修参加者へ個別に質問が投げられる。参加者は、登場人物についての役割やシナリオの展開について自らの意見を述べた。手前3年間で創造性が高まったのだろう。その光景は、これまでの業界研修にはないやり取りが飛び交っていた。概要をここに紹介しよう。

文章力、思考力、ストーリー力が幹部の能力を飛躍的に伸ばす

研修の講師は、本誌で特別寄稿をお願いしたこともある上村英樹氏。SS向け人材派遣や店舗受託、危険物の講習会なども行うスペックの社長だ。同氏はストーリーに関するビジネス書作家で、SSの現場を知るブランディングの専門家でもある。
浪田石油はスペック社の創業時からのクライアントだということで、恩返しの気持ちも込めて、5年ほど前から社員研修を請け負うようになったそうだ。
さて、その研修内容だが、3カ月に1度の集合研修でストーリーの基礎を学ぶ。初年度は「お金」、「時間」、「仕事」、「家族」の4つの視点で、登場人物にどのように影響を与えるかを紐解いていくという。合間の月に名作といわれる課題の書籍や映画、ドキュメンタリーを、各自が鑑賞して、レポートにまとめて提出する。講師がレポートに赤ペンでコメントする古典的なやり取りだ。それも、たんなる感想文ではなく、登場人物1人ひとりの役柄について、どうしてそのような配役になったのか等を論理的に考えていくことが求められる。
また、その作品は悲劇作なのか、それとも喜劇作なのか、なぜ売れ続けているのか–といった観点についても、自分なりの考えを記さなければならない。これらのレポート資料をもとに、皆の前で独自の意見を発表して参加者で理解を深めていくのだ。もともと、経営者向けに著作執筆の指導を行っていた内容をSSの幹部人材向けにカスタマイズしたとのこと。
上村氏によると、魅力的な作品はその配役が判りやすく、登場人物のキャラクター(個性)が引き立って役割通りの動きをするのだという。研修を通し、感動するストーリーの展開を理屈から学んでいくというわけだ。

アイディアを生み出す段階からアイディアを実践するステージへ

「これまでの研修の概念を変えてくれた。何より成長の度合いがレポートから顕著に読み取れる」と、浪田昌治社長はスペックのストーリー研修に太鼓判を押す。
精神論に終始する型通りの研修が多いなか、浪田石油はもっと社員の創造性を独自に高めていきたいという要望があった。上村氏は、「時間的な制約が多いなかで、いかに効率よく思考力と文章力を高め、さらに創造性を養うことが出来るかに焦点を当てました。事前に毎月異なる課題を与え、思い思いのページでじっくり向き合ってもらうことで、意識の面でもゆとりができたのだと思います」と話す。
レポートでは、主に登場人物の役割について、誰が主人公で、どの人物が物語の展開に影響を与えるキーマンなのかを考えてもらう。配役のみならず、シナリオやカット割りからの分析も加えてもらい、ストーリーを俯瞰的に見つめる習慣をつけさせる。
ちなみに、物語の配役は、人の感情を投影したキャラクター(個性的な役回り)であることが多く、実際の仕事でも同じような動きになることが多いそうだ。要するに、キャラクター性を把握できれば、スタッフの退職を寸前で回避することや、お怒りのお客様を鎮めることもある程度では可能になると上村氏はいう。
創業120余年の浪田石油が、幾多の時代を乗り越えて今なお存続するのは人材を育成してきた結果なのだろう。研修で培ったストーリーの要素をもとに、お客様の心をつかみながら繁盛する一方、良き人材が定着し、元気良く働くチーム作りを実現する近未来絵図が容易に想像できた。
浪田社長は「研修で培った創造性をアイディアに変えて、各人が地道に仕事として実践していくだろう」と期待をにじませる。その布石として、これまでの机上型集合研修から、いかに店舗でストーリーを活用できるかをアドバイスする実践型指導研修へと要望も移行しているそうだ。まるで映画のような感動するストーリーが浪田石油の店舗で体験できる日も近いかもしれない。